前立腺がんの個別化医療

目次

監修
群馬大学大学院医学系研究科 泌尿器科学分野
教授 鈴木 和浩 先生

前立腺がんの治療の進め方

前立腺がんには「監視療法」「フォーカルテラピー」「手術療法」「放射線療法」「ホルモン療法」「化学療法」など、さまざまな治療法があります。がんの進行度(広がり)や悪性度、患者さんの全身状態、年齢などにあわせて治療法を選択します。

なかでも、ホルモン療法が効きにくくなった状態を指すCRPC(シーアールピーシー、去勢抵抗性前立腺がん)と診断されると、全身に作用してがん細胞が増えるのを抑える「薬物治療」を中心とした治療を行います。

治療薬としては、アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)や細胞傷害性抗がん薬などが用いられます。その選択にあたっては、患者さんがこれまで受けてきた治療の経過や全身状態、がんの進行度やがん細胞の性質(遺伝子変異の状態)などを確認し、それぞれの患者さんに合った薬を選択します。
薬の効果が薄れたら、次の薬へと変更しながら、病気の進行を抑えます。

CRPCと診断されてからの治療の進め方

CRPCと診断されてからの治療の進め方のイメージ

個別化医療とは

近年では、がん細胞の性質や特徴を調べ、患者さん一人ひとりの状態に応じた治療を選択できるようになってきました。
このような治療法のことを「個別化治療」といいます。
前立腺癌の個別化治療には、「PARP阻害薬」と「免疫チェックポイント阻害薬」があります。

PARP阻害薬とは

DNAは2本の鎖がらせん状構造をしていますが、このうちの1本に異常が生じた際にPARP(poly-ADP-ribose polymerase)がその修復に関与することが知られています。PARP阻害薬は細胞内でのPARPの働きを妨げ、1本の鎖に異常が生じたDNAが正常に修復できないようにします。

PARP阻害薬を使うには

遠隔転移のあるCRPC(mCRPC)と診断され、 事前の遺伝子検査で「BRCA(ビーアールシーエー)遺伝子変異」という特徴が確認された患者さんには、「PARP阻害薬」と呼ばれる薬を使用することができます。

免疫チェックポイント阻害薬とは

がん細胞がリンパ球などの免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みを解除する薬が、免疫チェックポイント阻害薬です。

免疫チェックポイント阻害薬を使うには

遠隔転移のあるCRPC(mCRPC)と診断され、事前の遺伝子検査で「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)」 や「高腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)」 という特徴が確認された患者さんには、免疫チェックポイント阻害薬の一種である「抗PD-1抗体」と呼ばれる薬を使用することができます。

個別化医療を受けるためには

個別化治療を行うには、事前に遺伝子検査で、患者さんのがん細胞に特定の遺伝子の変異や特徴があるかどうかを調べる必要があります。

遺伝子検査には、手術や診断時に採取したがん組織または血液(採血)を用います。
遠隔転移のあるCRPC(mCRPC)患者さんは、どちらも保険診療で検査を受けることができます。

この遺伝子検査によって、患者さんご自身の治療選択肢が広がるかどうかを確認することができます。

遺伝子検査で分かること

遠隔転移のあるCRPC(mCRPC)では、遺伝子検査でがんの発生や進行と関連する「BRCA(ビーアールシーエー)」と呼ばれる遺伝子に変異があるかどうか、遺伝子の「マイクロサテライト」と呼ばれる特定の部分に異常がある(MSI-High)かどうか、がん細胞の遺伝子変異の量が多い(TMB-High)かどうかを調べることができます。

BRCA遺伝子の変異があると判明した場合はPARP阻害薬、MSI-High、TMB-Highがあると判明した場合は免疫チェックポイント阻害薬を用いた個別化治療を受けられるようになる可能性があります。

一方で、BRCA遺伝子の変異やMSI-High、TMB-Highではないと判明した場合は、ホルモン療法や化学療法などを行います。

なお、患者さんご自身にBRCA遺伝子に変異がある場合、血縁者にも同じ変異が受け継がれている可能性があります。ご家族が遺伝子変異を受け継いでいたとしても、必ずがんを発症するわけではありません。
詳しくは「遺伝子検査の話」をご覧ください。