遺伝子検査の話

目次

監修
群馬大学大学院医学系研究科 泌尿器科学分野
教授 鈴木 和浩 先生

個別化医療:遺伝子の変化に基づいた転移性CRPCの治療

個別化治療とは、がん細胞の性質や特徴をもとに、患者さんごとに適した治療法を選択することです。そのため、個別化治療を行うためには、「あなたのがん細胞がどんな性質をもっているか」「あなたのがん細胞に特定の性質があるかどうか」を検査によって調べる必要があります。

遺伝子検査を行う目的

治療方針を決めるために必要な情報を調べることができます。

  • 承認されている薬で治療が可能かどうか
  • 遺伝子変化に対応するが、承認されていない薬があるかどうか
  • 臨床試験等への参加が選択肢になり得るか
  • 効果が得られにくい薬はないか

※受ける検査の種類によって、得られる情報は異なります。詳しくは主治医にご相談ください。

転移性CRPCの遺伝子検査とは?

転移性のCRPCでは、「BRCA(ビーアールシーエー)という遺伝子に変異がある」かどうか、また、「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)」や「高腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)」と呼ばれる性質があるかどうかを検査し、がんの発生や進行と関連する遺伝子の特徴を調べることができます。BRCA遺伝子の変化(変異)やMSI-High、TMB-Highが確認された場合には、遺伝子の変化に則した治療法(個別化治療)を選択できる可能性があります。

遺伝子検査の流れ

遺伝子の検査には、血液を用いて特定の遺伝子の変異や特徴だけを調べる検査と、主に診断時のがん組織を用いて※がんに関わる300種類以上におよぶ複数の遺伝子の変異や特徴を一度に調べる検査の2種類があります。

検査を申し込むためには、説明を受けて同意書の提出などの手続きが必要で、検査を申し込んでから結果が出るまでに3週間ほどかかります。

検査の流れ

検査の流れのイメージ

※手術や診断時のがん組織が使用できない場合は再度採取を行うことがあります。がん組織での検査が難しいと判断された場合には血液を用いることがあります。

遺伝子検査を受ける前に知っておいてほしいこと

遺伝子検査は、個別化医療の適応となるかどうかを調べるための検査ですが、検査に使用するがん組織の状態などによっては結果が出ないことや、個別化医療の適用になる遺伝子の変異や特徴が見つからないこともあります。

このほかにもご家族や親族に影響する遺伝性のがんの可能性が分かることがあります。

遺伝性のがんの可能性について

転移性CRPCの個別化医療の適応かどうかを調べる「BRCA遺伝子の変異」という特徴は、遺伝する可能性があることが知られています。そのため、家族や親族に同じ特徴を持つ方がいる可能性があります。

検査を受ける前に、このような結果を知りたいかどうかといった点も含めて、ご家族とよく話し合うことが大切です。

BRCA遺伝子変異検査の結果は、家族に影響する?

血液を用いた検査によってBRCA遺伝子に変異があることが判明した場合、お子さんやお孫さんに変異が受け継がれる可能性があります。
BRCA遺伝子変異には、遺伝するもの(遺伝性)と、遺伝しないもの(タバコや食生活などの後天的な要因によって生じたもの)があります。遺伝しない変異は、ご家族には影響しません。

遺伝性の変異は、2分の1の確率でお子さんに受け継がれます。ただし、遺伝子変異を受け継いでも必ずがんを発症するわけではありません。
遺伝性のBRCA遺伝子変異がある患者さんは、乳がん、卵巣がん、前立腺がんの発症リスク(がんにかかる可能性)が、一般より高いといわれています。この性質は、性別を問わずお子さんやお孫さんに受け継がれます。
「がんになりやすい体質」ということを知っておくと、定期的な検診を受けて早期発見に努めるなど、将来に備えることができると考えられています。

遺伝に関係している変異は、あなたの子に2分の1の確率で受け継がれます

検査で判明した変異が遺伝性かどうかについて、特定の遺伝子を調べる検査で判明したBRCA遺伝子の変異は、遺伝に関係しています。一方、複数の遺伝子を一度に調べる検査では、検出されたBRCA遺伝子の変異が遺伝性かどうかまでは分からないため、遺伝性の変異かどうかを知りたいと希望する場合には改めて確認のための検査を行います。

BRCA遺伝子に変異があった場合に、家族でどのような話し合いが必要ですか?

検査結果が陽性であった場合は、この結果をもとに、お子さんやお孫さんも遺伝子変異検査※を受けて同じ変異をもっていることが分かれば、その方の将来のがん早期発見や早期治療につなげることができるというメリットがあります。
一方で、家族間の人間関係への影響、結婚・出産への影響など、ご家族が検査結果を知ったことで悩みを抱えてしまうデメリットも考えられます。

こうしたメリット、デメリットをふまえて、ご自身の検査結果をご家族に伝えるかどうか決定し、伝えた際には検査を受けるかどうかご家族で話し合う必要があります。
これらの決定の際には考慮すべきことが多く、難しく、悩んでしまうこともあると思われます。そのような場合には、主治医に遺伝の専門家を紹介してもらい、今後の対応やご家族への伝え方などについて相談できる「遺伝カウンセリング」を受けることができます。遺伝カウンセリングは検査前後のどちらでも受けることができます。

※検査には、保険診療で受けられるものと、自費診療(保険外診療)となるものがありますので、詳しくは主治医へお尋ねください。

がん発症リスクの比較

がん発症リスクの比較
  • 1) がんの統計編集委員会編:がんの統計<2022年版>がん研究振興財団2022(2019年データ)
  • 2) Petrucelli N, et al. 1998[updated 2022]. GeneReviews(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1247/)