前立腺がんとはどんな病気?

目次

監修
群馬大学大学院医学系研究科 泌尿器科学分野
教授 鈴木 和浩 先生

特徴

男性のがんの中で増加率がトップ

前立腺がんは、男性のがんのうち最も多いがんで、今後も増加が予想されているがんのひとつです。

がん罹患者数の将来予測

図:がん罹患者数の将来予測

がん発症の関係性

前立腺がんは年齢依存性のがんであり、高齢者に多く発症します。 そのため日本人の高齢化に伴い、前立腺がんの患者さんが増えてきています。また、ご家族に前立腺がんの患者さんがいる場合は発症リスクが高くなると言われています。
さらに、近年の食生活の欧米化に伴い動物性脂肪をたくさん摂るようになったことが、前立腺がん発症になんらかの影響をおよぼしていると考えられています。

年齢・家族歴・食生活の欧米化

前立腺はどこにあるの?

前立腺は男性だけにある臓器です。前立腺は膀胱の下にあり、尿道を取り囲んでいます。
また、一部が直腸に接しているため、直腸の壁越しに指で触れることができます。
大きさはちょうど栗の実くらいで、形も栗によく似ています。

図:前立腺はどこにあるの?

前立腺肥大症との違いは?

前立腺肥大症は良性前立腺腫大に尿道閉塞、下部尿路症状が絡み合った複合的な臨床像です。前立腺肥大症は、前立腺の病気のなかでもっとも多くみられる病気です。
この良性前立腺腫大は内腺(尿道を取り囲む部分:移行領域)で発生するため、尿道が圧迫され狭くなる(尿道閉塞)ことで、尿がでにくい、トイレの回数が多くなる、尿をしたあとすっきりしない、などの自覚症状(下部尿路症状)があらわれます。排尿に関連する症状があらわれるようになると日常生活に支障をきたすこともあるため、適切な治療が必要になります。しかし、なかには前立腺腫大があっても症状がみられない人もいます。
一方、前立腺がんは、主に外腺(尿道から離れた部分:辺縁領域)に発生するため、早期では自覚症状はあらわれません。がんが進行し、尿道や膀胱を圧迫するようになると、排尿時の症状や血尿などがあらわれるようになります。

前立腺がん 前立腺肥大症
発生部位 図:前立腺がんの発生部位

外線(辺縁領域)から悪性腫瘍が発生する

図:前立腺肥大症の発生部位

内線(移行領域)に良性の腫瘍が発生して、尿道や膀胱を圧迫していく

経過

進行すると排尿障害があらわれたり、骨やほかの臓器に転移する

肥大により尿道が圧迫されて、排尿障害があらわれる
転移はしない

前立腺がん
発生部位
図:前立腺がんの発生部位

外線(辺縁領域)から悪性腫瘍が発生する

経過

進行すると排尿障害があらわれたり、骨やほかの臓器に転移する

前立腺肥大症
発生部位
図:前立腺肥大症の発生部位

内線(移行領域)に良性の腫瘍が発生して、尿道や膀胱を圧迫していく

経過

肥大により尿道が圧迫されて、排尿障害があらわれる
転移はしない

自覚症状について

前立腺がんは、早期には自覚症状がほとんどありません。がんが進行すると「尿がでにくい」「排尿時に痛みを伴う」「尿や精液に血が混じる」などの症状があらわれます。
また、さらに進行するとがんが骨に転移して、骨痛があらわれることがあります。

早期がん

特有の自覚症状はほとんどありません。

がんが進行

  • 尿がでにくい
  • 排尿時に痛みを伴う
  • 尿や精液に血が混じる などの症状があらわれます。

さらに進行(転移)

がんが骨に転移して、骨痛があらわれることがあります。

前立腺がんはどう治療するの?

前立腺がんには、「手術療法」、「放射線療法」、「ホルモン療法」など、さまざまな治療法があります。これらの治療を単独あるいは組み合わせて行います。
治療法は、がんの進行度(広がり)や悪性度、また、患者さんの全身状態、年齢などを考えて、最適な方法を選択することになります。主治医とよく相談の上、納得のいく治療法を選択するようにしましょう。

治療法 種類/方法など
監視療法

定期的なPSA検査や生検で管理し、病状悪化が見られたら治療を開始します

フォーカルテラピー

MRIなどで確認されたがんを正常組織を残しつつ治療します

手術療法

前立腺全摘除術

開放手術、腹腔鏡手術、内視鏡下ミニマム創手術、ロボット支援下手術などがあります

放射線療法

外部照射療法

多門照射、3次元原体照射、強度変調放射線治療、粒子線治療(陽子線、重粒子線)などがあります

組織内照射療法

低線量率永久挿入組織内照射法(LDR)、高線量率組織内照射法(HDR)があります

薬物療法

ホルモン療法

作用メカニズムが異なる治療薬が用いられています
・LH-RH作動薬(アゴニスト)
・LH-RH遮断薬(アンタゴニスト)
・抗男性ホルモン剤(ステロイド性/非ステロイド性)
・女性ホルモン剤
・アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)

細胞傷害性
抗がん薬

タキサン系化学療法薬などが用いられています

放射性医薬品
内用療法

骨転移がある場合などに用いられることがあります

個別化治療
(分子標的療法)

特定の性質を持つがんに対して、免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬による個別化治療が選択されます